ステイゴールドと言えばゴールドシップやオルフェーヴルのパパで、ウマ娘ではキンイロリョテイちゃんとしてこっそり登場していて、何やら気性が荒くてヤバイ奴で善戦マンで…という印象を持っている人が多いでしょう。
通算成績は50戦7勝。種牡馬としては偉大だけど競争馬としてはどうなの?と思っている方が多いかもしれません。競馬に詳しい人はもちろんステイゴールドの凄さを知っているだろうけども、ウマ娘から競馬に入った人はステイゴールドの偉大さをまだ理解していないかもしれない。
ステイゴールドは本当に素晴らしい競走馬です。超個性的な馬で、ステイゴールドの馬生は本当にドラマや映画にして欲しい位、感動的で素晴らしいものなのです。
目次
ステイゴールドとはどんな馬だったのか
この「いつでもやってやんぞ!」みたいな顔のステイゴールドですが、まずは一体どんな馬だったのかを紹介していきましょう。
子供の頃からボス
ステイゴールドは父サンデーサイレンスと母ゴールデンサッシュの子供。いわゆる超良血馬のお坊ちゃんです。ボンボンです。
牧場時代は他の馬達と比べても馬体が小さくて目立たないタイプでした。でも性格やとってもヤンチャ。負けん気が強くて、めちゃくちゃ体が小さいのに牧場のボスでした。
めちゃくちゃボンボンで、めちゃくちゃ体は小さいのに、負けず嫌いで常に周りの馬を引き連れて走り回る。もうこの頃からステイゴールドはステイゴールドなのです。良き!
こいつマジで草食動物なのかよ…
競走馬として活躍する為にステイゴールドは池江泰郎厩舎に入厩します。池江さんと初めて会った時、ステイゴールドは吠えながら立ち上がったそうです。
池江「ほう、この馬がステイゴールドかぁ…」
ステゴ「ウオオオオオオオ(立ち上がりながら)」
もしもこれが人間であったら完全にヤバイ奴です。その後も調教や運動の際には本当に良く立ち上がるんだとか。池江さんが後のインタビューでこのように語っています。
立ち上がりましたねえ。それに厩舎にいるときでもステイゴールドの馬房の前を通ると、コブラみたいに凄い勢いで人間に襲いかかってくるんです。とても草食動物とは思えない、そう、まるで肉食獣のような激しさを感じる馬でした。
背中に乗ると立ち上がる。厩舎の前を通ると襲い掛かってくる。マジで何なんだよコイツ…草食動物なのかよ本当に…肉あげたら食うだろ…そんな性格の持ち主でした。
そう言えば息子さんも良く立ち上がってましたね。ゴールド○ップっていう馬ですけども。
立つ・蹴る・噛む
とにかく気性が荒いステイゴールドさん。馬場へ出る前の調教前の運動でも、立つ・蹴る・噛むのトリプル役満。振り落とされるなんて全く珍しい事ではなく、乗る時に回し蹴りが飛んできたり噛まれるのを常に心配しながらの調教だったそうです。
凶暴なのは人に対してだけではありません。調教中は近づいてくる馬に対しても立ち上がって威嚇する為に他厩舎から避けられていたそうです。
もう周りにいる全ての者が敵であるかのように常に威嚇しまくるリアル暴れん坊将軍状態のステイゴールドさん。常に闘争心で溢れかえっているタイプですね。人間であればボクシングで大成するタイプです。
やりたくない事は絶対にやらない
ステイゴールドはとってもはっきりとした性格でした。ワイがこの世で一番エライと思っているステイゴールドはやりたくない事は徹底してやりません。
世話をしていた山元重治氏
「とにかく『自分が一番エライ』ということをいつもいつも主張している馬」
「自分のペース、自分のやり方に徹底してこだわり、やりたくないことは頑としてやらない強情さは、引退まで変わりませんでしたね」
「僕らが要求したことに対して、それは譲れる、それは譲れないっていうのをちゃんと表現してくれるわけ。そういう意味では、基本的には扱いにくい馬なんだけど、わかってやれば、中途はんぱな馬よりは扱いやすい。わかります?何がしたい、どうしたらいいのか分かる馬だけに扱いやすい。だからみんな入れ込んでしまう」
こんな感じである。別にやってあげても良いけど?的な感じ。それはダメってやるとソッポを向かれて終わりだったので「そうそう、それでいいよ~いい感じだよ~」とおだてながら調教していたらしい。どんな馬やねん!好き!
でも猫は好き
馬にも人にも媚びないスタイルのステイゴールドが唯一デレデレだったのが猫ちゃん。
ステイゴールド担当の獣医師だった方のブログには「ニャンコに優しかった」と書かれていました。人にも馬にもコブラの如く襲い掛かるステイゴールドも猫にだけはデレデレ。ニャンコ恐るべし!
能力はあるのにレースで勝てない
そんなステイゴールドの生涯成績は50戦7勝です。種牡馬としての活躍は知ってるけど、競走馬としては微妙だったのかな?とあまり競馬を知らない人は感じちゃうかもしれないけどそういう訳ではありません。
『本気で走らない』と称されるほど、ステイゴールドはレース中も敵意むき出しで走る為に集中しきれていなかったとも言われています。
現役時代、一緒に戦ったスペシャルウィークやテイエムオペラオーなどと比べても、ステイゴールドは遜色のない能力を秘めてはいたんです。気性さえもう少し丸くなって、人間のいうことを聞いてくれるようになれば十分、そうした馬たちにも先着できる自信がありました。なのに、なかなか勝てない。スタッフの一人として、それが凄く歯がゆかったですね。
周囲からはブロンズ、シルバーコレクターなどといわれましたが、決して2着、3着にしかこられないレベルの馬ではなかった。勝てる能力を秘めているのに、勝たせることができないという歯がゆさを感じ続けていました。
ではなぜ、勝てなかったのかといえば、気性の激しさ、難しさ、要は我の強さが大きな要因。ただ、競走馬にとっては気性というファクターも能力のひとつですから。
同時代を一緒に戦ったスペシャルウィークやテイエムオペラオーなどと匹敵する能力を持っていながら、気性の荒さ故に勝ち切る事が出来なかったと池江さんは語っています。
実際ステイゴールドは稀代のシルバー&ブロンズコレクターという愛称が定着していて、2000年に重賞初制覇するまで29連敗を記録。でも連敗期間中も2着が10回。掲示板入線が22回。とにかく惜しい所まではいつもいくっていうレースが続きます。
海外レースで覚醒
惜敗続きと超個性的な性格で既に人気だったステイゴールドですが、結局引退するまでに国内G1は1回も取れませんでした。それでもなぜステイゴールドが今現在でも語り継がれている名馬と言われているのか、その理由は海外レースでの覚醒です。
ドバイシーマクラシックへの挑戦
ステイゴールドの初の海外遠征はドバイシーマクラシック(当時はG2)。しかしドバイへの移動時間は待ち時間も含めて約30時間となっていて、この輸送でめちゃくちゃ消耗したステイゴールドは体重が激減。体調は全く万全ではありませんでした。
賞金世界最高額のドバイシーマクラシックはG2であるにも関わらず、出走メンバーが鬼のようにヤバくて、特に世界各国のG1で勝ち捲くっていたファンタスティックライトが大注目されていました。世界に君臨するゴドルフィン所有の名馬で騎乗は世界ナンバー1騎手のデットーリ。更に前年度チャンピオンと、もう付け入る隙がないレベルでヤバイ馬がライバルだったので、
ステイゴールド頑張って欲しいけど、さすがに無理か…
というのが大方の見方でした。しかも馬体重は全く戻らなくて体調も万全ではない状況だったので、掲示板に入れれば御の字みたいな感じだったのだが…
ドバイで奇跡を起こす
このレースの一番人気はもちろんブックメーカーではファンタスティックライトで2.7倍。ステイゴールドは16頭立ての10番人気でした。単勝オッズは最下位の34倍。もはや誰もステイゴールドが勝つとは思っていない状況です。ステイゴールド大好きな日本人でさえも勝つ事は難しいと思っていたでしょう。
しかし、彼は奇跡を起こす。
先頭を走っていたファンタスティックライトを最後の最後に差し切り、見事勝利!このドバイでの勝利は日本調教馬による重賞制覇では史上3頭で、サンデーサイレンス産駒の日本調教馬としては史上初。歴史を作ったのである!
武豊氏のコメント
日本でなかなか勝てなかったのに、こうやってステイゴールドが大きなところを勝ったこと、それから日本のサンデーサイレンス産駒がやっと海外で勝ったこと、これは日本の競馬の歴史を変えるできごとで、今後大きな意味を持ってくると思います
ちなみに負けたファンタスティックライトはこの後、エミレーツワールドシリーズレーシングチャンピオンの座に君臨して、欧州の年度代表馬とアメリカの芝チャンピオンに選出。マジで当時の世界トップ中のトップの馬に勝ったステイゴールド。ドラマみたい!
背中に羽が生えた引退レース
ドバイで世界最強の馬に勝利したステイゴールドの株は爆上がり。しかしそこはステイゴールドですので一筋縄ではいきません。
凱旋レースとなった宝塚記念では、最後の直線で前に出るものの、直線に向いて1頭になった時にいきなり集中力が途切れて4着。その後の京都大賞典では斜行で失格。天皇賞7着ジャパンカップ4着と結果を残せないまま、引退レースの香港ヴァーズへと向かいます。
淡々とした流れの中で後方につけていたステイゴールドですが、第3コーナーからランフランコ・デットーリ騎乗のエクラールがロングスパートを仕掛けて後続を引き離します。
奇しくもドバイで勝利した時と同じくゴドルフィンブルーの勝負服を身にまとったデットーリ騎手が騎乗している馬が前に!何これ!ドラマか!
コーナーを回った時の先頭との差は10馬身。さすがに無理か…日本国民全員が思った。
最後の直線で抜けるものの、ステイゴールドの癖である斜行を開始!お前って奴は…最後の最後まで…
もうダメだぁ…また2着だぁ…
と、思ったその時!!!!
グングン伸びる!!!!
本気だ!ステイゴールドが本気で走ってる!
ゴール寸前でアタマ差かわして見事に1着!ずーっと善戦ばかりで勝てなかった念願のG1を初制覇。更に日本の厩舎に所属する日本産馬としては史上初の国外の国際G1制覇という勲章つき。神か…
動画内の素敵なコメント
自分の父親はこのレースの前まで「最後まで二着だったらステイゴールドらしいな」なんて笑っていた
でも、この時、最後の最後にステイゴールドが駆け抜けるとき、一度も泣いたところを見たことのない父が涙を流して「勝て」と、大声で叫んでいた
いつも善戦するネタ馬だから好きだったんじゃない
いつも自分らしい走り方をして僅差で負けてしまい、でもそれを最後まで貫き、そして最後の最後でそれが実を結んだ、そんなステイゴールドが好きだったんだと父はよく言います
人と違う生き方でいい、ただ自分の考えと違う生き方だけはするな、父がいつも口癖のように言ってくれる教訓を教えてくれたのはステイゴールド、まぎれもなくあなたです
レース見た事ないって人は絶対に見ましょう。最後の直線マジで痺れます。レース後の武豊騎手のコメントも感動的です。
「コーナーを回ったとき、エクラールとの差は10馬身。普通なら絶対に届かない距離です。勝ちたい、勝たせてあげたいという気持ちはありましたが、まさか勝てるとは思っていませんでした」
「前を走るエクラールが止まって見えるほど、ステイゴールドの脚が強烈で。この後に登場してきた無敗の三冠馬、ディープインパクトの走りを“飛ぶ”と表現しましたが、あのときのステイゴールドは“背中に羽が生えている”ようでした」
出典元:https://wpb.shueisha.co.jp/news/sports/2015/02/23/43923/
ちなみに検量室ではこんな会話があったそうです。
デ 「またあの馬にやられたよ。どうも、僕とは相性が良くないみたいだ」
豊 「ゴドルフィンブルーの勝負服を見ると燃えるみたい。でも、これが引退レースなんだ」
デ 「ユタカは寂しくなるだろうけど、僕にとってはとてもいいニュースだね」
出典元:https://wpb.shueisha.co.jp/news/sports/2015/02/23/43923/
ドバイでも勝利し、香港でも勝利し、どちらも世界ナンバー1騎手が騎乗する馬。国内では善戦が続いていたステイゴールドは海外では2戦2勝。
池江調教師は「映画でもドラマでも、二度とは見られないようなシーン」と語っており、国内でも大絶賛されたステイゴールドの勝利。この勝利が評価され、JRA賞特別賞を受賞して、予定はなかった引退式をファンからの強い要望で実現。
当日は香港ヴァーズで使用されたゼッケンのレプリカを着用し、場内にはスティーヴィー・ワンダーの「Stay Gold」が流されました。
国内では中々勝ち切る事ができず、気性が荒い手がつけられない暴れん坊で、でも素質は凄くて、海外遠征で2回とも世界最強騎手を破ったステイゴールド。最後の引退レースで馬生最高の走りを見せる…
マジで映画です。長編感動映画のような馬生を送ったステイゴールド。まさに…
愛さずにはいられない。
その後引退したステイゴールドの活躍は皆さんご存知でしょう。しかし残念ながらステイゴールドは2015年2月5日、繋養先のブリーダーズスタリオンステーションでの種付け後に異常をきたし輸送先の社台ホースクリニックにて死亡しました。
ステイゴールドの獣医師だった方のブログにはこのように綴られています。
ステイゴールド号は人に媚びる馬ではありませんでした
病気もせず
獣医師の手のかからない馬でした
そして
最後の最後まで弱みを見せず
どんなに苦しくても耐える馬でした
それは彼の決して諦めないレーススタイルと同じ
種牡馬になってからも、その実力で自らの評価を大きく変えました
聡明で、勇敢で、孤高で、カッコよくて…
私たちはそんな貴方をもっともっとみていたかった
ステイが旅立った日は夕陽の美しい日でした
これからゆっくり貴方の居ない日を受け入れていくのでしょう
そして貴方の偉大さをこれからもっと感じるでしょう
産駒たちに面影を探し
産駒の走りに心を躍らせながら
私たちも前に進もうと思います
「ステイはファンの馬でもあったんです」
ブリーダーズ・スタリオンの方が言っていました
いつも一緒にいたスタッフの方々は悲しい思いをしているはずです
偉大な種牡馬と、最期まで寄り添ってくれたことに心から感謝します
ステイゴールド号の遺骨は
今日9日の夕方、スタリオンのみんなのもとに帰ってきました
これからもみんなのそばでずっと見守っていてください
どうか安らかに…
きっとステイゴールドは今も天国で楽しく走り回っているでしょう。そして天国にいる人とか馬に威嚇をして、草食動物だけどきっと肉を食べているはずです。
そんなステイゴールドを我々は一生愛さずにいられません。
今でもステイゴールドのファンがいる。現役時代を知らなくても新しいファンもいる。それってすごい事だと思う。ただ強いだけじゃなくただ速いだけでなく、何か惹きつけられるものがあるのがステイゴールド。